オーコに汚染されたモダン・レガシーやオーコがいなくなったスタンダードに目を背け、ボーラス信者としてグリクシスカラーで楽しく遊んでいた。
手札破壊、カウンター、除去、ドロー、そしてニコル・ボーラスな頭のいいデッキだ。
《思考囲い》、《シルムガルの嘲笑》、《致命的な一押し》、《時を越えた探索》等々、その選択肢は豊富にみえた。そう、みえていたのだ。
グリクシスミッドレンジ、グリクシスドラゴン、グリクシスコントロール等々、どれもこれも素晴らしいデッキである。
除去コンデッキの華がきたか――そう錯覚したのもつかの間のことである
―有象無象が淘汰され、精鋭揃いとなった今、グリクシスがパイオニア環境で生き抜くための限界が見えてしまった。
単純に、「選択する意味ないな」ってことをあらためて確認したのでここにまとめていく。
簡潔にいって、ミッドレンジ以降の速度帯のグリクシスは、現環境において殆ど存在価値がない。
グリクシスはオワコン、Q.E.D。
1タイプだけ試していない形があるが、それは後程。
まず、大前提。
グリクシスを語る前に、環境の整理が必要だろう。
1週間のNON禁止改定と地獄のMOPTQ8連戦となったパイオニア。
その勝ち組は、黒単アグロ、各種原野、そしてオーコだった。
なお8回目のMOPTQはシミックアグロが通過との情報あり。— kenta harane (@jspd_) 2019年12月2日
8日連続MOPTQ結果
1回目:黒単
2回目:黒単
3回目:シミックアグロ
4回目:シミックランプ
5回目:ゴルガリ原野
6回目:セレズニア人間
7回目:シミックアグロ
8回目:シミックアグロ
黒単アグロ
パイオニア最強のアグロデッキとして、黒単アグロを選ばないプレイヤーはあまりいないだろう。
下記記事がデッキ構成など詳しいが、ここでも述べていく。
【コラム】パイオニアで最高のビートダウンデッキと評される黒単アグロ!本日は #HareruyaHopes に所属する浦瀬 亮佑選手が同デッキを徹底解説いたします!プレイングの指針となるTIPSは必見です!— 晴れる屋メディア (@hareruya_Media) 2019年11月29日
パイオニア・デッキガイド ~黒単アグロ~https://t.co/eMBSimQGil #mtgjp pic.twitter.com/XP27upPWY1
多様な攻めと軽量の妨害手段、そして継続的なアドバンテージ手段を持つ、環境屈指のアグロである。
①多様な攻め
1マナクリーチャーは《漆黒軍の騎士》を筆頭に、おおむね12枚。
そこに加わるのが《密輸人の回転翼機》という最強の機体に《変わり谷》という最強のミシュラン、そして《悪ふざけのランクル》という多様な能力を持つ速攻クリーチャーだ。
軽量、機体、ミシュラン、速攻――と多様な攻めに加えて、黒単アグロの持つ、他のアグロにない特性として墓地利用まであるのだから、始末におえない。
《屑鉄場のたかり屋》と《血染めの勇者》という、何度も蘇るクロックは悪夢のような強さ――まるで、ドレッジである。
環境に存在するアグロのなかで、もっとも《密輸人の回転翼機》を強く使えるのが黒単アグロだ。墓地をリソースとして計算できるため、戦闘時のルーティング能力に無駄が全くない。
《変わり谷》は最強のミシュランであり、ソーサリー除去がきかない。機体も、墓地要員も、同じ長所だ。
そう、黒単アグロ相手のラスゴは、盤面を落ち着かせる呪文ではないのだ。
かといって、単体除去では対処し辛い。
先にも述べたが、1マナクリーチャーの群れは、単体除去による防御を容易に打ち破る。
その本質は、パイオニアにおける除去呪文の弱さといえるだろう。
②軽量の妨害手段
《致命的な一押し》と《思考囲い》という、環境最強クラスの軽量妨害手段を4枚使えるのが黒単アグロだ。
アグロの使う《思考囲い》とコントロールの使う《思考囲い》は雲泥の差がある。
ライフをリソースとして使う《思考囲い》は、その万能性と引き換えに試合時間を犠牲にしているといってもいいだろう。
試合時間――勝利までに費やせるターンだ。いわゆる、テンポという概念の一つの側面である。
どれだけアドバンテージをとられようと、勝てばいいというのがアグロの概念だ。
致命的なカードを抜き、その間に殴り切ればいいのである。
コントロールには出来ない芸当で、ライフは1点あればいいとはいえ、その1点を必死に守るのもまたコントロールなのだ。
《致命的な一押し》をもっとも強く使うためには、如何にして紛争条件を達成するかだろう。
幸いにして黒単アグロには、容易に紛争条件を達成できるカードが詰め込まれている。軽量クリーチャーに、墓地要員は、気楽な紛争に貢献している。《血染めの勇者》で適当に殴れば、《致命的な一押し》は容易に紛争を達成する。
黒単アグロの持つ妨害手段の側面から考えると、4マナ域に鎮座することの多い《悪ふざけの名人、ランクル》は理にかなっている。
エルドレインの神話レアは、2種類の妨害手段と相性がいいのだ。
《思考囲い》で枯らしたハンドを締め上げてもいいし、紛争を達成するために生贄を行ってもいい。
③継続的なアドバンテージ源
本来、アグロデッキの弱点はリソース切れだ。軽量呪文は賞味期限が短いため、何らかの継続的な戦闘手段を必要とする。
かっての《頭蓋囲い》しかり、最近では《実験の狂乱》が記憶に新しいだろうか。
黒単アグロに関して言えばどうだろうか。
《密輸人の回転翼機》によるルーティング。
《血染めの勇者》と《屑鉄場のたかり屋》による墓地利用。
《漆黒軍の騎士》によるパンプ能力。
《悪ふざけのランクル》によるドロー(兼1点ダメージ)。
そして、《ロークスワイン城》だ。
土地でありながらドロー源となる《ロークスワイン城》は、驚異的な存在だ。黒単信心の屋台骨の一つだった《地下世界の人脈》を思い返してほしい。
沼が必要というアンタップ条件も、黒単アグロであればもちろん容易である。《ラムナプの遺跡》もそうだが、アンタップインとタップインでは土地としての強さが桁違いに変わる。
能力起動時に手札の枚数分ダメージをうけるが、そもそも、《ロークスワイン城》の能力を起動するターンは4ターン目以降。
その際、黒単アグロの手札にカードが貯まっているとは考え辛い。
ハンド消費の速さにより、ドロー時のデメリットが軽減されているのだ。
凄いカードである。
土地4枚で止まるのが一番いいが、土地少数でも軽量クリーチャーで襲い掛かれるし、土地を複数枚引いても《変わり谷》と《ロークスワイン城》で許容範囲となる。
マナスクリューにもマナフラッドにも強いという点は見逃せない。
パイオニアという環境は、土地事故に関して、他のフォーマットと比較すると許容範囲が酷く狭いという特徴がある。
軽量のドロー手段の欠如と、マナベースの不具合の影響が大きいのだ。
原野デッキ
【ブログ】イマニュエル・ゲルシェンソン🇦🇹選手が現時点でベストデッキと呼ぶバントランプを紹介!スタンダードで禁止された《死者の原野》が《約束の刻》や《至高の評決》を味方につけて帰ってきました!— 晴れる屋メディア (@hareruya_Media) 2019年11月25日
死者はパイオニアに蘇る ~バントランプデッキガイド~https://t.co/loKDgvv79n #mtgjp pic.twitter.com/xe7BXaJPqL
スタン禁止な《死者の原野》は、パイオニアでも強かった。
原野デッキの目的は、試合を長引かせつつ、土地を並べることだ。
そう、土地を並べるだけでいいのだ。
1→3→5の動き――《樹上の草食獣》→《エルフの再生者》→《約束の刻》というぶん周りもあるし、妨害を行いつつ淡々と土地を並べていけば、そのうち2/2が湧き出てくる。
《死者の原野》の特徴は、コントロールにめっぽう強い点だ。
置き続けた土地が、2/2の群れに換算されるのである。
無限のリソース源は、コントロールを食いつぶすし、並みのミッドレンジでは太刀打ちできない。
全体除去の返しに土地を置くだけでゾンビトークンが湧き出るのだ。
コントロールのメインボードにおける対処手段――除去・手札破壊、そしてカウンター呪文の全てをすり抜けていく。
色の選択肢が豊富なのも、原野デッキの強さだろう。
バント原野やスゥルタイ原野、そしてゴルガリ原野がみられている。
バントカラーであれば《時を解す者、テフェリー》と《風景の変容》という往年のコンボがあるし、黒を足せば《思考囲い》が使える。
アグロの使う《思考囲い》も強いが、コンボの使う《思考囲い》もまた強いのは自明の理なのだ。
土地を置き続ければ勝てる――マナフラッドに滅法強いデッキである。
・フード
なぜシミックビートダウンはMOPTQで7回中3回もtop4に残れたのか|やまもと #note https://t.co/H2YquIFdwJ— やまもと@無職 (@Gyamagic0321) 2019年12月1日
発足当初からパイオニアに打ち込んできた友人の調整録。— kenta harane (@jspd_) 2019年12月2日
なんと現時点でMOPTQトップ8に4回(!)進出しており、俺の知る中で最も同フォーマットに対する造詣が深い。
誰しもが諦めた「黒単と原野という相反する存在の"双方に有利"」を実現。パイオニアの環境定義にも触れられており非常に有用。 https://t.co/HFn1pw9nFs
黒単アグロと原野を狩る化け物――それが、シミックフードだ。
パイオニア神になったのも記憶に新しいところだが、この記事のシミックビートダウンもまた、理のデッキと言える。
黒単アグロ寄りも一回り大きいサイズを展開し、原野デッキには飛行持ちと《キランの真意号》、《探索する獣》で押し切るという、明確な勝ちプランを形にした構築が、MOPTQで暴れ散らしたのは当然の結果と言えるだろう。
・グリクシスって?
では、グリクシス(ミッドレンジ~コントロール)はどうだろうか。
1マナ域には《思考囲い》と《致命的な一押し》があるし、《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は4マナ域の蓋としても、7マナの勝ち手段としても優秀である。
当時のスタンではティムールエネルギーにまで顔を出した《スカラベの神》やでかい瞬唱こと《奔流の機械巨人》、《龍神、ニコル・ボーラス》も採用できる。
《時を越えた探索》もうてるのだから、気持ちがいいわけがない。
そう、気持ちがいいのだ。
勝てないが。
①軽量カードの弱さ
グリクシスの使う《思考囲い》と《致命的な一押し》は、黒単アグロほどのバリューがない。
《思考囲い》に目を向けよう。ショックイン→《思考囲い》というモダンな動きが頻出するのがグリクシスデッキだが、この動き、強いだろうか?
環境最強のアグロデッキは墓地利用が可能だ。原野デッキに対しては、《死者の原野》というキーカードが抜けない。それに、どちらもデッキ単体で強いため、1枚抜いただけではデッキが止まらない。
楔形という、貧弱な土地基盤の特性上、マナベースはショックランドに頼る必要がある。ファストランドの欠如は、序盤の動きとして致命的だ。そして――そうまでして唱えた1ターン目《思考囲い》の見返りよ。
コントロールは、ライフは1点あればいい。その大事な1点――4点も持っていかれたら、死ぬ。
グリクシスの使う《致命的な一押し》は、紛争が困難な点が弱点となる。2ターン目《ゴブリンの熟練扇動者》に血反吐を吐くのは、グリクシスの使用する《致命的な一押し》の弱点だろう。紛争達成時は《破滅の龍、ニコル・ボーラス》が死んだときである。
その他の除去は、2マナ域では《削剥》や《暴君の嘲笑》、《喪心》。3マナ域では《神々の憤怒》や《魔性》。4マナ域では《衰滅》や《煤の儀式》となる。
どれも一長一短であり、ソーサリータイミングの単体除去を選択肢としてとらざる得ないところに、パイオニアの除去コントロールの辛い部分がある。
パイオニアの盤面を構築する能力は、圧倒的だ。現代MTGの極致――各種PWや強力クリーチャー群が勢揃いしているのだ。除去をうち続けるだけでは、どこかで押し負ける。
1ターン目:《致命的な一押し》
2ターン目:《削剥》
3ターン目:《神々の憤怒》
ここまでやっても、相手が黒単アグロだと《変わり谷》は生きているし、速攻クリーチャーが止まらない。
そして、そんな除去ハンドが来るのは稀だし、これが原野相手では目も当てられない。
妨害手段とフィニッシャーと土地を程よく引く必要がある――特に、土地事故が絶対に許されないのがグリクシスだ。
かといって、序盤を軽量ドローに充てようと考えてみても、その選択肢は1マナ域では《選択》、2マナ域では《アズカンタの探索》程度である。
《血清の幻視》レベルがあれば別だが、残念ながらそんなことはない。
《選択》を唱える間に、盤面が完成する。《アズカンタの探索》を置く暇は、もちろんない。序盤にドロー呪文を唱えると、そのまま押し切られてしまう。かといって、除去に全て注ぎ込んでも、押し切られるのがおちだ。
先手でもっとも強い2マナのカードは、多分《思考消去》だろう。
相手の手札と自分のドローを操作する呪文で、《思考囲い》に疑似ドローがついており、それが1枚で出来る点は、十分にパイオニア級だ。
1枚という点が、重要である。パイオニアにおいて、複数の役割を1枚で行うことの重要性は、語る必要がないだろう。
もし《電解》があれば、グリクシスは十分に構築級だったかもしれない。
妨害とライブラリー操作を一度に行える呪文が少なすぎるのだ。
妨害――ハンデスや除去をうてば、手が整わない。手を整えようとドローソースをうてば、盤面で押し切られる。
カウンターに関しても、ピッチ呪文がないため先手/後手での強弱がはっきりと出てしまう。
《差し戻し》級のカウンター呪文があれば……クロックパーミッションが生き生きするだけであり、意味はない。
②盤面への影響力
《破滅の龍、ニコル・ボーラス》以降は脅威だが、それまでが弱い。原野が土地を淡々と置いている間、暇である。
暇=死亡だ。
《機知の勇者》という《スカラベの神》の相棒を引っ張り出してきたが、それでも盤面への影響力は低かった。所詮は3/2/1の平凡以下なスタッツであり、3/3/2はほしいところだ。
《つむじ風の巨匠》や《若き紅蓮術士》といった、序盤戦での盤面の影響力がデッキとして必要なのかもしれない。
③オーコ
《スカラベの神》は鹿だし、《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は鹿だ。
案の定、《王冠泥棒、オーコ》は、速攻を持たないクリーチャーを全否定してくれる。
《龍神、ニコル・ボーラス》に関しては、オーコに少し強そうにみえて、対戦相手の3/3鹿が止まらず、大体5マナの単体除去に成り下がる。
残念である。
④マナスクリューに弱すぎる
土地が詰まれば、グリクシスは負ける。
緩和のために軽量ドローを入れると、それを唱えている間に負ける。
2ターン目《選択》で土地を手に入れてターン終了は死がみえる。
《検閲》や《ヒエログリフの輝き》によるサイクリングでのデッキ強制回しをやってみたが、上手くいかなかった。
《選択》以下の呪文を連打すれば、負けるのは当然の理。手数を無理やり増やして《時を越えた探索》を唱えたところで、勝ちはしない。
土地27枚――《原野》でええやん。
・これからの展望
グリクシスはオワコンです。
そう言うのは簡単だし実質そういうことだが、まだ道はある。
禁止改定だ。
《死者の原野》と《密輸人の回転翼機》が禁止されれば、また環境は動き出す。
原野デッキの死滅は、環境のコントロールが息を吹き返す理由になるだろうし、《密輸人の回転翼機》が禁止されればアグロの回りが少し鈍るだろう。
とはいえ、3色デッキで《思考囲い》をうつ必要がある点は、コントロールとしては致命的な弱点であり、構造上そのリスク部分を上手くケアする必要がある。
ライフを保つ――一つの方法は、ライフゲインを多く取る――《ゲドの裏切り者、カリタス》や《ヴラスカの侮辱》の採用は一つの戦略だろう。
そして、もう一つ――盤面への影響力という考えに繋がるが、《ヴリンの神童、ジェイス》と《最後の望み、リリアナ》、そして、《叛逆の先導者、チャンドラ》という、PWコントロールという道が、今後のグリクシスの生きる術なのかもしれない。
どれも対戦相手にとっては放置できない強力なPWであり、ライフを守る盾になってくれる。
《最後の望み、リリアナ》がいれば、タフネス1に人権はないし、《叛逆の先導者、チャンドラ》は4点火力。
《ヴリンの神童、ジェイス》は、軽量クリーチャーかつルーティング手段でソーサリー呪文の使いまわし要因である。
《時を越えた探索》や《スカラベの神》はパイオニア環境では重く、土地が事故すると唱えることが難しかったが、《ヴリンの神童、ジェイス》は土地事故を回避しつつ、《思考囲い》の使い回しを行ってくれる。
盤面への圧力を強力に保ちつつ、妨害を行いアドバンテージを稼ぐ。
グリクシス`PWという戦略であれば、まだいけるかもしれない。
ラクドスミッドレンジと似たコンセプトだろうか。《再燃するフェニックス》や《栄光をもたらすもの》を併用し、1枚のカードで除去しつつ、クロックを展開していく。
自分の盤面を強力にし、相手の盤面を弱くする、相反する動きを序盤から行うことが、コントロールには求められている。
12/3追記
【お知らせ】 2019年12月2日発表の、認定イベントの「パイオニア」フォーマットにおける禁止カードの追加、および判断と見解について、翻訳をお届けいたします。パイオニアに関する次回告知は12月9日午後(米国時間)です。 https://t.co/Is9gZDKypr #mtgjp— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2019年12月3日
《密輸人の回転翼機》、《死者の原野》、《むかしむかし》が禁止!
これでグリクシス復活の兆しが!
0 件のコメント:
コメントを投稿